後継者だろうと、マグルだろうと、混血だろうと、例え純血だろうと。
君が誰であろうと、結局同じ『人間』なんだよね。
おかしいと思うんだ。区別するなんて。
ましてや、差別なんてもっての外。考えられないよ。
7.Heavens do not make people on people.
夕食の時も、リーマスは同室の四人と離れて隅のほうに座り、一人で居る姿勢を貫いていた。
「やっぱり部屋でもこうなるのかなぁ・・・」
ピーターがふっと呟く。
「ていうかこうだったよねぇ・・・」
ジェームズが横で溜め息をついた。
横に座るリリーが首を傾げ、ジェームズを覗き込んだ。
「何が?」
「〜〜〜〜〜ッ!!?」
奇声を発し、跳び上がるジェームズ。リリーは目を細めて彼を軽く睨んだ。
「それ、結構失礼だと思わない? 仮にも女の子に対して。」
「ごめん! ごめんねエバンス! わざとじゃないんだってば! これには深い訳が・・・」
「で、結局どうしたのー?」
間延びした言い方で、はシリウスに尋ねた。
シリウスは横の二人の言い争いに盛大な溜め息をつき、困ったように髪を掻き揚げた。
「何て言やいいんだろ・・・同室の奴がさ、リーマス・ルーピンっつーんだけど・・・あれなんだよな。愛想がないっていうか・・・・。
俺達と話そうとしなくて、だけど、要するに・・・」
「要するに、友達になりたいってことだよ」
が助け舟を出した。
リーマスの方を横目で眺め、頬杖をつく。
「まさか友達いらない、なんて言われるとは思わなかったけどね」
「う?」
きょとんとしてが小首を傾げた。
首をめぐらせリーマスを見る。
伏せ気味の瞳はとても大人しそうだが、周りを寄せ付けない空気が漂っている。
しかし一方で、にぎやかな声が聞こえるたびに、彼は僅かだが顔を上げるのだ。
そして眉間に皺を寄せる。それなのに決して怒っている表情ではない。
とても悔しそうなそれは、どう見ても羨望にしかとれない。
だからには納得がいかなかった。
「・・・そんなこと、言うような人じゃないと思うけど」
「そう?」
傍らのを、は不思議そうに見つめた。
「ん。だってね、うーんと・・・・・・辛そうな顔してるんだもん」
「「え?」」
シリウスもを見つめる。
しどろもどろだが、は言葉を続けた。
「えっとね、えっと・・・おかしい、じゃなくて・・・なんか、そう、矛盾してる気がする。
だって、望んで一人で居るなら、あんな顔して人を見ないでしょ?」
にも、の言う意味が分かった。
そうだ、あれは
―――あの表情は、願っても祈っても欲しいものが手に入らない時のもの
「そうだね・・・言われてみれば、確かにおかしい・・・」
正面で、シリウスは首を捻った。
「俺にはよく分かんないけど・・・でもお前らがそう言うならそうなんだろうな」
「何その人任せ的な発言」
素早くが突っ込んだ。
は朗らかに笑う。
「仕方ないよーシリウスだもん、ねー」
「さり気それ酷いぞ、・・・」
がっくりと肩を落としたシリウスの頭を、いつの間にか後ろに立っていたジェームズが叩いた。
「談話室戻ろう。皆でチェスしない?」
「はどう? 私も誘われたんだけど・・・あなたが行くならやるわ」
リリーが控えめに聞く。
はうんうんと頷いた。
「行く行く! 皆強そうだよねぇ」
「馬鹿言え、俺はお前に勝てる奴のが凄いと思う」
「え、ってそんなに強いの?」
立ち上がりながら、驚いたように言う。
他の三人も意外そうに見る中、シリウスは言葉を濁した。
「あー、こいつの場合は強いっていうか・・・なあ?」
「一応勝率百%だよー」
笑ってが続けると、四人は心なしか、顔色を青くした。
乾いた笑い声を響かせ、六人は大広間を出る。
その後姿をリーマスが見つめていることに、彼らは気付かなかった。
大広間を出る際に通ったスリザリンのテーブル。
そこから送られる大量の視線に気付かないほど、シリウスは鈍くは無かった。
前に居るジェームズやピーター、横を歩くたちと笑いながら、頭の中では悶々と煙が渦巻いている。
彼は、家柄で自分を判断されるのが一番嫌いだった。
『ブラック家の跡継ぎ』ではなく、『シリウス・ブラック』として関わってくれる友人達を、どれ程待ち望んだことか。
目の前の、そして隣の友人達を見て、静かに微笑む。
ふと、袖を引かれるのを感じた。
横を見ると、が俯いて袖を引っ張っていた。
「?」
「・・・だめ」
「は?」
シリウスが微笑んだ時、は何処かで小さく音が鳴ったような気がした。
良くない予感がする。
彼の袖を引き、足を止めた。
「どうしたの? 」
リリーが横から覗き込む。
「にゅう・・・なんか・・・」
答えようとした矢先、音が鳴った。
「へ?」
訳が分からず、狼狽して辺りを見回す。
「鐘の・・・音・・・?」
そう呟くと、リリーは怪訝そうな顔をした。
「鐘? そんなもの、どこにもないわよ?」
「でも今・・・」
もう一度。
今度は一メートルと離れていない場所で鳴らしたかのように。
そして、何かが『視えた』。
ははっとして顔を上げる。
目の前に居るのは、笑いながら歩き続けるジェームズ。
耳元で、鐘が鳴った。
それと重なるようにして、は叫んだ。
「ジェームズ危ない!」
「え?」
ジェームズが振り返った。
と、同時に、彼の頭上から大量の水が降ってきた。
「ジェームズ!」
「つっ・・・めたぁ・・・」
リリーとピーターがハンカチを出し、ジェームズに駆け寄った。
は自分のローブを脱いで、彼に被せようとする。
しかしシリウスは険しい表情で吹き抜けになっている上空を仰ぎ見た。もそれに倣う。
「ちっ、外したか」
「! ・・・おい、誰だやった奴。出て来い!」
吹き抜けに面したちょうど真上の階段から、男子が何人か出てきた。
背格好から言って、上級生であることは間違いない。おまけにスリザリン生でもある。
「ごきげんよう、ブラック家のご長男」
中でもリーダー格らしい男子が、にやにや嫌らしい笑みを浮かべながらシリウスに話しかけた。
シリウスは歯軋りしながら彼を睨みつけた。絞るように声を出す。
「ロドルファス・・・!」
彼、ロドルファス・レストレンジは、シリウスを見て鼻で笑った。
「いやあ、残念だったなあ。もう少しで君が濡れ鼠になるところが見れたのに」
「てめぇ、どういうつもりだ!」
シリウスが吼える。
取り巻きの男子達は、低く笑ってシリウスの神経を逆なでする。
「どういう? それは君、言わなくても分かってるだろう?
血を裏切る者め」
ロドルファスは冷酷な目つきでシリウスを睨んだ。
「そんな君が何故由緒正しいブラック家の跡継ぎなのか・・・俺は未だに理解できないね。
まあ、クリスマス休暇か何かで家に帰れば、居場所は無いんだろうけど。なんたって、血を裏切る者だ。
おまけに、そんな『穢れた血』とつるんでいるなんて、身の毛がよだつよ。あの方が何て思うだろう」
その台詞に、ジェームズが牙をむいた。
「穢れた血だと!? リリーのことを言ってるのか!? お前・・・!」
「なんだい? 君は。ああ・・・ポッター、だったか。あの方に歯向かう一族の」
ふんっとジェームズが鼻をならす。
「あの方? ヴォルデモートのことか?
悪いけど、あんな奴ただの親父だね。純血主義とか、古臭いったらないよ」
取り巻きの男子達が、ざわざわとそれに反論する。
ロドルファスは顔を赤くして激昂した。
「偉大なヴォルデモート卿をただの親父だと? ふざけるな!
身分をわきまえた口の利き方を知らないようだな。情けない。
これだからグリフィンドール生は・・・」
シリウスが、ジェームズが、ロドルファスらを睨みつける。
は感情のやり取りに耐えられず、その場に座り込んだ。
その膝に乗りながら、カレッジは毛を逆立てる。
スリザリンに囲まれた場合マグル出身のリリーは危険だと、そう判断したのだろうか、ピーターは震えながらリリーの前に立った。
はシリウスの隣でただ成り行きを眺めているように見える。
「お前はどうなんだよ」
唐突にシリウスが言った。
「これこそ、口の利き方も態度も知らない喧嘩じゃねーの?」
「はっ、何を言い出す・・・」
「いくら『血を裏切る』っても、俺はお前らの尊敬するブラック家の跡継ぎだぜ?
お前なんか、ベラトリックスの婚約者になっただけで、それこそ俺より身分が低いだろ。
それに、ここにはも居る」
いきなり肩を掴まれ、はシリウスを見上げた。
「ほえ、あたし?」
「他に誰が居るんだって・・・。
こいつは家の令嬢だ。いいのか? そんな口の利き方で」
そうして、再び睨み合う。
更に顔を赤く染めたロドルファスは、取り巻きに行くぞ、と声をかけ、姿を消した。
ジェームズが大きなくしゃみをする。
「いやあ、ずっとくしゃみ我慢してて・・・。
行こうよ、談話室。ここ寒いし、チェスしたいし」
彼は笑って言った。すっきりした笑い方だった。
暖炉の正面に居座って、ジェームズはの淹れてきた紅茶を啜った。
「ごめんねー、。ローブすぐ乾くと思うから」
「大丈夫だよ、ここ暖かいし」
微笑みかえしては、自分も紅茶を飲んだ。
のローブを火にかざしながら、ジェームズはそれを食い入るように見つめた。
「不思議だよね、これって。グリフィンドールカラーじゃないんだもん。
キラキラしてる・・・パールホワイト?」
「うん、そうだよ。僕のこれは・・・ホグワーツだから」
「どういうこと?」
んー、とは首を捻った。
「ほら、僕は四つの血を全て引いてる訳だから、本当はどの寮かなんて決められないんだ。
だけど、規則としてどこかに入らなきゃいけない。でも、その寮の本当の生徒じゃない。
そういう意味を込めて、ホグワーツの後継者には寮の色はもらえないんだ。
代わりに、黒を基調としたホグワーツカラーってやつをもらうんだよ」
ジェームズは、ほうほうと頷いた。
「じゃあ、ホグワーツカラーは黒とパールホワイトなんだね?」
「この代はね」
にっこり笑って言う。
「毎回、色が違うんだ。僕の父さんは黒と紫だったってさ。因みに、ハッフルパフだよ」
「言い方失礼だけど・・・ややこしいねぇ・・・」
あはは、とは声をあげて笑った。
自身の紅茶を飲み干してから、ジェームズの手からも空のカップを取った。
「僕も、そう思ってる」
「魔法界の純血貴族にも、種類があるの」
暖炉脇の小さなテーブルでは、ピーターと、なんとカレッジがチェスをしている。
ジェームズにも勝利したカレッジだったが、ピーターにはどうも勝てそうに無い。
彼が唸る傍らで、はリリーに笑いかけた。
「純血一番! マグル生まれなんて汚らわしい! っていうのが純血主義。
トップを走るのがブラック本家ね。次にブラックの分家、あとはマルフォイ家、とかが有名かなぁ・・・。
逆に、マグル生まれも混血も純血も、皆同じ魔法使いだ! っていうのが非純血主義。
代表格って言ったら多分うちと、あとは貴族じゃないけどウィーズリー家、そうそう、ポッター家もそうだね。
あ、大丈夫だよ。シリウスは純血主義なんて大っ嫌いだから。ね?」
リリーは苦笑した。
「そんなに気を使わなくてもいいわよ。
じゃあねぇ・・・穢れた血っていうのは?」
それを聞いた途端、シリウスが不機嫌な表情になった。
「それはマグル生まれを差別する最悪の言葉だ。
・・・ごめんな、リリー」
「別に気にしてないし、あなたのせいじゃ無いわよ」
柔らかく笑うリリー。
は横で伸びをした。
「他に、聞きたいことあるー?」
少し考えるように、リリーは部屋の隅を見つめた。
「そうね・・・なんとか卿、とか」
そう言われ、シリウスとは顔を見合わせた。
「ヴォルデモート卿、ね。えっと、彼は・・・」
「あいつは・・・純血主義者のリーダー的存在、だな・・・」
二人とも、妙に歯切れが悪い。
戸惑うリリーを見て、は意を決したように口を開いた。
「あのね、純血主義・マグル生まれ排除を掲げた人なの。
彼に従うか従わないかで、純血主義と非純血主義なんてはっきりした区別がついちゃったのよ。
それまではこんなに表立ってなかったんだって。
皆、彼はカリスマだ、とか帝王だ、とか言ってるけど・・・」
シリウスは周りを見回した。声を落とす。
「俺とは、アイツがなにか企んでるような気がしてる。
純血の貴族の姓に、『ヴォルデモート』なんて、どこにもないんだ。
本名を隠すってことは、何か他に隠してることがあると・・・そう思わないか?」
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